アキハバラ的日本橋の日常
・恋人
「エヴァ、エヴァったら」
「・・・その名前で呼ぶなっ」
そう言って私は信司を殴った。
私の名前は福音。福音と書いて『ふくね』と読む。
私の両親は敬虔なキリスト教徒だったからつけられた名前。
自分でも気に入ってたんだけど、このアホが好きで見ていたアニメに触発されて変なあだ名をつけた。
エヴァンゲリオン、そのアニメにハマったこのアホは喜び勇んで言った。
「エヴァンゲリオンって、福音って意味らしいな、今日からお前のことエヴァって呼ぶから」
あっけらかんというこのアホの顔面にストレートをぶち込んでやった。
それなのに懲りずにエヴァと呼んでくる。
このアホとは高校からの付き合い。
見た目は普通なくせに思いっきりアニオタ。
映画見に行ってもイベントに行っても全部アニメだらけ。
なんでこんなのと付き合ったんだろ。
私はどこで間違ったのかをいつも考えるのだけど、そのたびに気が滅入る。
付き合ってって言ったの、私だったから。
最初はアニオタらしいところはなくて、デートってもファーストフードとかで話したりウインドウショッピングしたりしてたのに、気づいたらアホののペース
に巻き込まれていた。私は別に詳しくなりたくなかったのにこのアホは何かにつけ人を洗脳しようとする。挙句に、コスプレを押し付けてきた。
「レイやアスカもいいんだけど、委員長だな、やっぱり」
ぶちっ。
切れた私は、ボディブロー入れた後、あごに一発お見舞いしてやった。
確かこのアホが言ってた最も効果的な攻撃方法。
これもアニメが出展だったな。確かラスカル。
完全に目を回したこのアホの服をはぎ取り持ってきたコスチュームを着せてやった。
で、このコスチュームが入ってた袋にアホの服を詰め込むとさっさとホテルを出た。
バツに、アホのパンツまで脱がせて持ってきたのでかなり困るはず。
ホテルを出た私は近くにあるファーストフードの店に入った。
しばらくすると、信司から電話がかかってきた。
着メロで信司とわかるので、携帯の電源を切ってやった。
これでかなり困るはず。
いや、実際困ってるから携帯にかけてきたんだろう。
ふと、そこで面白いことに気づいた私は、携帯でメールを入れた。
私はここで待ってるって。
そのメールを送信した後私はこみあげてくる笑いを我慢するのに苦労した。
15分後、制服を身にまとった信司は顔を真っ赤にしながらやってきた。
「返せよ、服」
「いいじゃない、今着てるので」
「足がスースーするんだけど」
信司の声がだんだんと小さくなってくる。
「暑い夏だからスカートもいいんじゃないの?」
クスリと私は笑いながら言った。
「・・・目覚めちゃったらエヴァの責任だからな・・・」
ぽつりと言ったその一言に私は爆笑した。
店内の他の客が一斉にこっちを見る。
明らかに・・・引いてるな。
「反省した?」
しゅんとした信司はこくりとうなずいた。
ホテルに戻った私たちはとりあえず汗を流した。
「なぁ、エヴァ?」
ばきっ。
「すいません、福音さま」
「さまをつければいいってもんじゃないわよ」
お風呂に首までつかった私は信司にもたれかかっていた。
人の胸を勝手に触りだした両手をつかむと私は怒ったように言った。
「で、いいものって何よ」
「ちょっと待ってて」
そういうと信司はバスタオルも身に着けずにユニットバスを飛び出していた。
カバンからあさってきたものを手にうれしそうに言った。
「じゃーん、ダミープラ・・」
かぽーん。
言い終えるより早く、私は近くにあった風呂桶を投げつけた。
結局、私は煽てあげられ褒めちぎられ奉り上げられ媚びへつらわれ、最後に土下座までされて『それ』を使う羽目になった。
「どう?」
「どうって言われても・・・」
私は初めて感じる違和感に戸惑っていた。
「うっ・・くっ」
「あ、やっぱりいいんだ」
私のかすかな喘ぎ声に信司は喜んで動かし始めた。
「あっ・・・ちょ、ちょっとそんなにされたら痛いって」
やめようとしない信司に私は蹴りをいれた。
「そうかぁ・・・じゃ、本物で・・・プラグ挿入!」
思いっきり白けた空気が生まれた。
「・・・ダミープラグの方がよかったわ・・・」
やる気のなくなった私の上で信司はへこへこ動き回っていた。
・だめなロボット
日本橋にある裏通り、通称オタロード。
その一角にあるビルの細い階段にそれはあった。
申し訳なさげに出されたコルクボードには『秘密の館へ』と書かれていた。
「ここだここ、この店のメイドロボット。いいんだぜ!」
うれしそうに話す巧(たくみ)。
いかにも胡散臭い階段を上ると正面には西洋門をあしらった入口があった。
門の向こう側にはとってつけたような両開きの扉があった。
巧は手慣れた様子で門をくぐりぬけ扉を開けた。
「いらっしゃ・・・、おかえりなさいませ。ご主人さま」
中でメイドのコスチュームに身を包んだ可愛い女性が挨拶してくれた。
「あれ、変わったの?」
巧は言った。
「はい、がんばります」
彼女はとびきりの笑顔を向けてくれた。
「へぇ、すごいな。あれでロボットか」
俺は驚いて巧に聞いた。
巧はむすっとして言った。
「前の方がよかったんだけどな」
「そうなんだ」
俺は今の子でも十二分に可愛いと思うんだが・・・。
彼女は店の奥からトレイを出して、水を運んでくれようとしたその瞬間・・・。
「きゃあっ」
自分で自分の裾を踏んで思いっきりこけた。
その手に持たれていたトレイとコップがゆっくり放物線を描いておれの方に飛んできた。一秒もなかっただろう。俺には永遠の時間のように感じた。
「すみません、すみません」
頭からずぶぬれになった俺に彼女は泣きそうになりながら謝った。
店の奥からはオーナーであろう男がすっ飛んできた。
「本当に申し訳ありません。ロボットが故障したもんだからバイトの女の子なんですよ・・・」