The DAETH KANAAN−PEPO 「ま、待てっ。連れていかないでくれっ。」  俺たちの村、ナンタールが邪教集団に襲われて3日後、瀕死のアリスの前に頭から黒いローブを被り手に大鎌を持つ死神が現れた。  俺は恐怖心と戦いながら死神の前に立ちはだかった。  死神の虚ろな眼光に圧倒されてはいたが、自分の命に代えてもアリスをかばうつもりだった。  俺との結婚を目前に控え、邪教集団いけにえとしてボロボロにされた少女が死神に取り付かれる、こんな惨いことがあっていいものだろうか。このままではあまりにもアリスが不憫すぎる。それに、俺はアリスを心から愛している。どんなことになろうともアリスを失いたくない。  そんな俺におかまいなしに振り上げられた大鎌は振り上げられた。  俺は、苦しそうに横たわるアリスの体に覆い被さった。アリスをかばう一心だった。もしかすると、アリスと一緒になって死んでしまっていても構わないと思っていたのかもしれない。  しかし、死神の大鎌は俺の体をすり抜けアリスの魂だけを断ち切った。  アリスは俺の体の下で大きく息を吐き出した後、動かなくなった。 「またあの夢か・・・」  胸をぐっと締め付けるような感覚が俺の意識をはっきりさせた。  あれからどれくらい経ったのか忘れてしまった。  だが、俺の両手にはまだアリスの感覚が残っていた。暗がりの中、俺は自分の両手を見つめた。アリスの体から生気が抜けて行く感覚が両手によみがえった。 「アリス・・・」  そのとき、俺はそばに誰かがいるのに気づいた。  暗がりではあったが俺の両手に影が覆い重なったからだ。  襲いかかってくるよう気配はなく、俺はなんだか懐かしいような感覚にとらわれた。 「誰だ?レインか?」  レインは、この邪教集団における俺の部下だ。レインと俺は同じ目的を持つ同志といってもいい。俺達は、復讐のために邪教集団に潜り込んでいた。  しかし、暗がりに立つ人影は何も答えなかった。  俺は目を凝らした。暗がり中黒いローブに身を包んでいるその人物の手に、大鎌が握られていることに気づいた。鎌の先は床の上に置かれていた。 「曲者かっ!」  俺は枕元に置いてある魔法の杖に手を伸ばした。復讐のため、師匠を殺して奪った強力な魔法の杖。 「もう・・・まもなくだ・・・」  低くくぐもった声がした。その声の奥底にある何かに俺の背筋が冷たくなった。  魔法の杖に手を伸ばそうとしていた俺の手が言うことを聞かず硬直した。 「だ、だれだ・・・」  黒いローブの中から発せられる威圧感に圧倒されながら俺は、やっとのことで言葉を紡いだ。 「・・・名は言えぬ・・・。」  名状し難い恐怖を伴い人影は聞き取りにくい声で言った。 「何の・・・事だ。」 空気が妙に重く感じ言葉を紡ぐ事すら苦痛に感じてくる威圧感がそこにはあった。 「お前に用はない。それとも俺が狙っている奴を倒した時、お前はそいつを刈るのか。」 影は言った。 「迎えに来た。お前は逝かねばならない。それが神の意志だ。」 「俺にはまだやらねばならぬ事がある。お前を倒してでも生き延びる。」  死神は何も言わずに大鎌を男に向けた。 「誰の差し金だ。誰が俺に呪いをかけた。  身を守ろうとする『奴』か  俺に殺された者共か  復讐の為、犯した女か。」  レドラムは愛用の魔法の杖を振りかぶると影に打ち掛かった。 影は何も言わずに打撃を大鎌で受け止めた。 「呪いを掛けしは汝。汝自身が自らにかけた。  呪いの名は復讐。」  そう言うと死神は骨しかない指をレドラムの後ろにさした。  レドラムは驚愕した。そこには力のぬけた自分自身の体が横たわっていた。  体からは既にうじが湧き出している。 レドラムは脱力した。 「俺は既に・・・」  死神はレドラムに向かっていった。 「我、汝を連れてゆかん。」 レドラムは高笑いした。 「可笑しいだろう。俺を地獄に突き落とせるのだからな。貴様自身の復讐も成すこともできたってわけだ。」 「悲しいことを言わないで。」  すっと差し上げられたフードの向こう側にあるしゃれこうべに一人の女の姿がダブりはじめた。俺の良く知っている女・・・。彼女は優しく微笑むとうなずいた。  俺は彼女の差し出した手を取った。温かい手。それは俺がよく知っている手だ。  彼女の優しい微笑みが俺の心を満たしていった。  俺は彼女のからだに寄り添った。彼女の持つ温かさにまどろんでいった。  辛さも憎しみもすべてが幻のように消えていった。 「なぜ?待って!連れて行かないで!」  嫌な予感がしたレインはレドラムの部屋の扉を開いた。そして、ベッドで眠っているレドラムに寄り添っている死神に気づいて叫んだ。  死神は、レインに一瞥をくれると暗がりに消えていった。  それと同時にレドラムの体はぴくりとも動かなくなった。 「レ、レドラム様ぁぁぁぁっ」  レインは、ベッドに横たわるレドラムに駆け寄った。そして、レドラムの胸の上に倒れ込むように寄り添った。  レドラムは驚くほど穏やかな表情を残していたが、レインは気づかなかった。 「厄払いだ!」  祈とうをささげる司祭がいた。  死にゆく家族を守ろうと必死に死神と戦うものがいた。  この者たちが真実を理解するのはまだ先であった。 あとがき これだけで気づく人はいませんから解説します。 ここの登場人物、文芸倶楽部に掲載しました、ルナティクスキャンペーンのプレイヤーキャラクターの一人、レドラムに焦点を当てたインサイドストーリーです。 レドラムのプレイヤーが読んだら悶絶必死というやつですよ。 まぁ、一番最初にこの話を考えた時には全く関係ありませんでしたが。 死神ってモノとそれに対する男というもので書き始めたんですけどね。 そのうちにレドラムに重なる部分が多々ありまして、大幅改稿しました。 お陰で時間ばかりかかって作品として仕上がるまで相当・・・10年以上寝かせてましたね。 腐らなかっただけましなのかもしれません。 死神の表現は、この作品の形以外にも色々と思い考えましたので違うものは別の作品で表現できたらなと思ってます。 リプレイ本編では語られなかったレドラムの最期としては、甘すぎるかなと思っているんですよね。 でも、救いがあってもいいかなってとこです。 とはいえ、本編のレドラムとちょっと設定が変わっちゃいましたね。 もう少し話を膨らませて本編に近づけたいという思いもありますが、未完の作品を仕上げるってのを優先しました。 この作品の死神が納得しないという人の方が多いだろうなとは思ってます。 でも、同時に死神に看取られる最期って言うのは幸せなんじゃないでしょうか? たまにはこういう甘い作品があってもいいかなと。 ファンタジーという名のおとぎばなしですよ。 メッセージはこちらまで http://miporinpepo.dyndns.org/cgi-bin/novels/k-taibbs.cgi